事件番号:昭和47年(家)第431号 事件名 :児童の里親委託等審判事件 裁判所 :大阪家庭裁判所堺支部 判決日 : 昭和48年1月29日 (1973-01-29) 判示事項: 児童福祉法二八条一項一号による措置の承認 判決要旨: 母が出生届未了のまま所在不明となり、後見人である実父も病身で自己の身辺も処理できず、児童の監護など到底おぼつかない状況にあり、児童も父の暴行や淋しさから再三家出をくり返している等の事情がある事案において、養護施設に収容することを承認した事例 参照条文: 児童福祉法28条−1 掲載文献: 家庭裁判月報25巻9号131頁 -------------------------------------------------------------------------------- 主   文 申立人が事件本人を養護施設に収容することを承認する。 理   由 一、本件申立の要旨は、事件本人は後見人が病弱で監護を十分にせず放任しているため、怠学、家出外泊、不純異性交遊(最近は成人異性との交遊)および金品持出し等の行為をくりかえしているものである。申立人は事件本人をこのまま放置できないため児童福祉法第二七条の措置により保護しようとするものであるが、後見人が事件本人の福祉について理解せず同意が得られないため同法第二八条一項一号により本申立に及んだというにある。 よつて調査したところ次のような事情が認められる。 (1)事件本人は昭和三四年四月一一日後見人と当時同人が営業するスタンドバーで働いていた細谷富貴子との間に出生した子であるが、事件本人が二歳の頃上記富貴子が事件本人を置いたまま家出し、以来同人の行方が不明である。後見人は事件本人が小学校入学前同人の戸籍がなくては支障があろうとの配慮から当庁に手続をなし、同庁において昭和四〇年五月二〇日後見人の選任と事件本人の就籍許可の各審判がなされ、これにもとづき同人の戸籍が編製されたが、いまだにその父母欄は空白のままである。 (2)後見人は前記富貴子の家出後ずつと事件本人を養育してきたが同人が小学校二〜三年頃中風で倒れたため上記営業の継続が不可能となり、それ以来生活保護を受けて生活している。そして昭和四七年一〇月一二日から約一ケ月間心臓、肝臓病などで入院したこともあり、右手足が不自由なので殆ど寝たきりの生活であり、事件本人が家に居るときは同人に家事をさせて生活してきた。 (3)事件本人は小学校五〜六年頃からしばしば家出するようになつたが、友達の家にしばらく滞在したことを明らかにした他は、後見人の友達のところで寝たり、アパートの隅で夜を過したりしたと述べるだけで、家出時の生活状況は詳らかでない。事件本人が成人異性との交際があり、年齢以上に身体的発育がよいことなどから周囲の者は事件本人に異性関係があるのではないかと案じている。事件本人は小学校の頃は家出により学校を休むことがあつたが、最近は夏休みや休日に家出をして学校には一応登校している。また、事件本人は昭和四七年一一月三日後見人が入院して不在中、生活保護費金三万余円を受取つたまま家出した。 事件本人はこれまでの家出の理由として、父(後見人のこと)は帰宅時間をやかましく言い、それに遅れると叱つたり、小学校の頃には椅子や紐で叩いたり、足でけられたりしたごとがある。そういう仕打ちをする父は自分が憎いからするのだろうと思う。また後見人は体が不自由なのは分るが或程度のことは一、人で処理できるのに自らしようとせず、事件本人に風呂屋で衣類をぬがさせたりいろいろの家事を文句を言いながらやらせる。淋しい家には居たくないし、もつと自由な生活がしたいと述べている。 (4)申立人は昭和四六年一二月学校からの通告により事件本人に対する指導を開始し、昭和四七年八月一二日堺北警察署からも通告を受けて一時保護の措置をとつたこともあつた。その後事件本人が前記日時生活保護費を持つたまま家出したため、一一月二〇日上記警察署松田主任と申立人の小路ケースワーカーが、後見人に対し事件本人の施設入所の承諾を求めに赴いたが、その了解が得られなかつた。 一方、事件本人は同年一二月一八日申立人に保護を求め養護施設に入所することを希望し、一時保護を受けているが、現在も自宅に帰ることを拒否し、上記希望に変りがない。後見人は本件調査に際し事件本人を不びんに思いながらも、後に残された自己の淋しさ、不便さから施設入所に同意しない。 以上認定した事情のもとにおいては、後見人は病身であつて自己の身辺を処理できないのであるから事件本人の監護など到底おぼつかない状況にあり、そのような環境のもとに事件本人を放置しておくことは同人の福祉を害することが明らかである。   そうだとすれば、この際事件本人を養護施設に収容し、安定した環境のもとで同人に義務教育を施し、規律ある生活を修得させるのが相当である。 よつて、本件申立は理由があるので、これを認容することとし、主文のとおり審判する。(家事審判官 寺沢光子)